実売データだけではわからなかった「購入検討」と「購入」の「時期ズレ」。月間400万回の検索データからみえた、潜在顧客の購入検討プロセス

「あなたの家族像が実現できる社会をつくる」というビジョンを掲げるコネヒト株式会社は、「ママリデータ※」を使ったビジネス支援を開始します。ママリアプリ内の検索データやQ&Aデータから子育て家庭の悩みや困りごとを分析し、それらを解決するための商品・サービスが広がっていく社会作りに取り組みます。

※妊活中・妊娠中・子育て中の女性に寄り添うコミュニティアプリ「ママリ」のデータ。会員数280万人、月間130万件の投稿があり、2019年に出産をした女性の3人に1人が利用しています。出産日を起点に、アプリ「ママリ」内における検索ワードの推移や投稿内容からそれぞれの家庭で抱えている悩みや話題を把握することが可能です。

日本トイザらス株式会社(以下、日本トイザらス)が運営している日本最大級のベビー用品専門店『ベビーザらス』で「ママリデータ」を試験的に導入していただきました。今回のデータ分析から「取り組むべき課題が具体的になりました」と語るは、日本トイザらスマーケティング本部ロイヤリティ&カスタマーエンゲージメント部の三澤佑季子さん。

「ママリデータ」の活用でどのような発見があったのか、分析結果をどのように生かしていくのか、詳しくお話をうかがいました。

『ベビーザらス』の「検索開始タイミング」に着目したきっかけ

―日本トイザらスが運営する『ベビーザらス』は、厳選したマタニティ・ベビー用品を全国110店舗、及びオンラインストアで販売しており、「必要なものは何でもそろう」と定評があります。今回「ママリデータ」を導入するにあたり、解決を望む課題はあったのでしょうか?

三澤佑季子様(以下、三澤様):「ママリデータ」を活用した動機の1つに『ベビーザらス』の認知タイミングについて、ママたちの本音から裏付けられたデータに基づいて見える化し、社内で認識を統一したかったという思いがあります。

過去何度か、弊社のお客様であるポイントカード会員の中から、子育て中のママたちに集まっていただき、ベビー用品の購入に至る行動や動機などのお話を伺う座談会を実施しました。そのとき『ベビーザらス』の認知タイミングが競合他社と比べて遅れている傾向が見られ、ママたちのライフスタイルや性格の違いによって、認知タイミングが異なるという発見が、問題意識を抱いたきっかけです。

参加者の中には比較的早い段階から『ベビーザらス』を認知してくださっていた方もいましたが、詳しくお話をうかがってみると、積極的に情報収集をした結果、ベビーザらスに「たどり着いている」という印象を受けました。

一方、参加者の多くは、競合他社含め、ベビー・マタニティ用品を購入する店を選んだ理由として「名前を知っていたから」「周囲の人からすすめられたから」「なんとなく」など、そのスタンスはやや受動的でした。そして、残念ながら「妊娠前から知っていた」という点では『ベビーザらス』の名前がなかなかあがってこなかったのです。

参加者からは「もっと早くベビーザらスのことを知っていたら、妊娠期から行っていました」という声も多く聞かれました。

以来、『ベビーザらス』は競合他社と比べて、プレママ・ママに認知されるタイミングや認知度に差があるのではないか、ということを肌感覚で感じていました。

「ママリデータ」で現在のアプローチ方法の課題を探る

―「ママリデータ」を利用した背景についてお聞かせください。

三澤様:これまで『ベビーザらス』の認知度を高めるために、SNSなどのオウンドメディア、Web広告、雑誌や地域メディアなどの媒体を使っての宣伝活動や、オンラインストアのSEO対策、ママ向けイベントの出展・開催、産院への営業活動など、あらゆる活動を継続して行ってきました。また、調査会社のデータ活用や会員向けのアンケート収集なども定期的に行い、これらの活動の改善を繰り返し行っています。しかし、訴求改善を続けていても、これといった目に見える数値もなく限界を感じていました。これらの活動を通じて認知度を高められているのか社内でも疑問視され、信頼できるデータに基づいた数値化が必要だと思っていました。

以前からお付き合いのあったコネヒト社が運営する「ママリ」は、ママ向けNo.1アプリであり、暮らしや働き方など異なる環境で、妊娠から子育てまで多様な悩みを抱えているママたちによるさまざまな情報が集まる場です。

一般的なアンケートや座談会とは性質が異なり、主催者への意識が向いていない「バイアスがかかっていない生の声」に触れられることが魅力です。現在のアプローチ方法の改善や、認知度アップのためのヒントが見つけられるかもしれないと思い、「ママリデータ」を活用させて頂くことにしました。

―実際のデータをご覧になって、新たな発見はありましたか?

三澤様:データを分析すると、『ベビーザらス』が認知される(検索される)タイミングは、競合他社に比べて数ヵ月の差があることがわかりました。事前に座談会やアンケートなどでママたちの声を聞いていましたので、ある程度予想していましたが、改めて日数の差がわかると、愕然としました。認知されるタイミングの日数差=競合他社への顧客獲得を許している日数ということになるので、非常に重要な結果を得たと思いました。

また「(ベビーザらスで)実際に商品を購入する時期」と「商品の購入を検討する時期」にも一部商品でズレがあることがわかりました。

例えば、ひとつの商品カテゴリーを分析してみたときに、弊社の購買データ上では、産後に購入する方が多かったのに対し、ママリ内の検索データからは、産前に最も多く検索されていることがわかりました。

その商品カテゴリーでターゲットとしている産後ママたちの「検討する」タイミングと実際に「購入する」タイミングで若干のズレが生じていることが認識できたのは、とても有意義でした。

なかなか厳しい結果ではありますが、これまで漠然と感知していたことが具体的なデータを通じて可視化されてよかったと思います。

データを狭く・深く掘り下げたことで、具体的な施策が見えてきた

―今回のデータ収集で意識したことはありましたか?

三澤様:データを得ることも大切ですが、「データをどう活用していくか」という点が重要だと考えていました。ですから、収集したデータをマーケティングツールにどのように落とし込むのがいいのか、ということを踏まえた形で担当者の方に解析結果を設計していただきました。

弊社では、メルマガ会員様向けのサービスとして、ご登録いただいたお子様の出産予定日・生年月日情報をもとに、マーケティングオートメーションツールを活用した、「出産・子育て準備メールマガジン」を配信しています。(※妊娠6ヵ月~生後6ヵ月までの1年間)

このサービスは、会員様一人ひとりのお子様のヵ月にあった情報を、メールマガジンに掲載し配信をしています。今回のデータ分析から、商品の検索タイミングのほかに、さらに「ママ自身が、どのような時期に、出産や育児に不安を感じ、どんな情報を必要としているのか」について深く掘り下げていくことにしました。

―メールマガジンに特化した理由は?

三澤様:分析で得た結果をすぐに反映できるマーケティングツールがメールマガジンだったことと、弊社の顧客になってくれている会員の方々が、上記でお話ししたズレに違和感を感じ、競合他社へ流出している可能性も考えられるため、すぐに対応したかったというのも大きいです。

―「出産・子育て準備メールマガジン」の特徴について教えてください。

三澤様:メールマガジンというと、会員に向けた割引セールや、ポイント〇倍など、お得に商品を購入できる情報を配信していると思われがちですが、「出産・子育て準備メールマガジン」はそういった内容とは異なり、ご登録されたお子様の出産予定日・生年月日を基準に、ママの妊娠週数やお子様の月齢に合わせた、その人その人に合ったタイミングで、出産・子育て情報をお届けする「読み物(=マガジン)」のような内容になっています。

例えば、妊娠中の方には妊娠ヵ月ごとに、おなかの中の赤ちゃんの状態や、ママのからだについて専門家からの説明やアドバイスを掲載したり、先輩ママの出産エピソードを紹介しています。特に妊娠中はタイミングによってからだの変化や悩みも異なるので、メールマガジンの読者の妊娠週数に沿った情報を届けられるように工夫しています。これから出産を迎えるママ・パパやご家族にとって、出産への悩みや不安を少しでも解消できるような内容になっていると思います。

からだの状態や悩みに関する情報に加え、弊社の購買データを基に、メールマガジンの配信タイミング毎に購入率が高い商品=用意しておくとよいグッズとして、先輩ママの購入レビューと一緒に紹介し、「押し売り」にならない情報発信を心がけています。毎週の定期配信のため、一度読まなくなってしまうと、それ以降の購買想起のチャンスを逃してしまうことになるため、掲載内容は細かく設計しています。そのため、セール情報等のメールマガジンに比べ、開封率が2~3倍高いという結果を得ることが出来ています。

一方で課題もありました。それは、開封率が高いのに対し商品購入の「コンバージョン」がそれほど高くないこと。

メールマガジンはよく読まれてはいるのです。ところが、タイミングよく商品の購入につながっているかと……いったらそうでもありませんでした。

―今回のデータ解析でコンバージョン向上のヒントはありましたか?

三澤様:一番の収穫は情報提供のタイミングについて、です。これまで、メールマガジンに掲載する商品の選定は、弊社の購買データの情報だけで行ってきました。

しかし、「ママリデータ」を分析すると、一部の商品カテゴリーにおいて「購入を検討している時期」と「実際に購入する時期」には差が見られました。

購入時期より前に情報収集を済ませ、実際に購入する頃には既に何を買うのかある程度決まっている傾向が見られたのです。

―つまり、これまでのメールマガジンでは、情報提供のタイミングが少し遅れていた可能性がある、ということになるのでしょうか。

三澤様:その可能性はあります。例えば先ほどお話しした商品カテゴリーの場合、購入率の高い産後に紹介するのではなく、産前の「具体的に商品を絞り込む前の、情報を収集する時期」に、きちんと情報を提供することで購入を想起させる必要があると感じました。

一つのカテゴリーをとっても、様々なブランドがあり、商品ごとに多種多様な機能があります。「ママリデータ」を分析すると、初めてのお買い物を行うママたちは、具体的な商品を絞り込む前に、先輩ママたちに「これは買った方が良いですか?」「このようなライフスタイルですがどんな商品が必要ですか?」などの、情報収集を行う時期があることがわかりました。

初めてのお買い物を行うママが、何が必要なのか、本当に必要かどうかを見極める大事なタイミングに合わせて、「こんなママには、この商品が必要ですよ」「こんなママがおススメしていますよ」という商品情報を発信することでコンバージョンの改善につながる可能性が高いと、データを分析して見えてきました。

商品ごとの「購入検討時期」に合わせた情報提供を

―「ママリデータ」からは、主要な商品の購入検討時期が見えてきたのでしょうか。

三澤様:はい。ママリ内の検索データとQ&Aデータの2つの軸で調査して頂きました。

今回のデータ分析を通じて「どの時期に、どんな商品カテゴリーの購入を検討し始めて、いつまで関心が続くのか」という点がクリアになりました。今期のメールマガジンのリバイスに合わせて調整をしていきます。

また、プレママ・ママが出産・育児について、ベビー用品購入の際にどんなことに悩み、迷い、不安を抱えているかも見えてきました。コロナ禍でより大変になっている出産準備や育児の悩み・不安が少しでも軽くなるように、『ベビーザらス』として提供できるサービスの拡充を行っていこうと思っています。

このような改善を繰り返しながらサービスを向上させ、数年後には『ベビーザらス』の認知タイミングを早めることで、競合他社との差をしっかり埋めていき、最終的にセールスアップにつなげることを目標としています。

今後「ママリデータ」を使ってやってみたいこと

―今回「ママリデータ」を活用してみて、もう少しデータを掘り下げたいテーマはありましたか?

三澤様:弊社のECサイトにも活用できそうです。例えば『ベビーザらス』のオンラインストアには「出産・子育て準備リスト」というページがあるのですが、「いつ、何に困り、(先輩ママの体験から)何が役に立ったのか」など、調査によって得られた「タイミング」と「実体験」などインサイトに沿って情報が提供できるよう、改善する余地があると思います。

メールマガジンと同様に、お客様が必要としているときに必要な情報が届くことを心がけたいです。

また、今回は限られた期間でメールマガジンに特化したデータ分析を行っていただきましたが、『ベビーザらス』の認知タイミングの遅れの根本的な原因を探るにはもう少し時間をかけて多面的に分析することが必要だとも感じています。

―今後の展望をお聞かせください。

三澤様:先ほどお話しした通り、競合他社との認知タイミングの差は大きな課題です。お客様に、『ベビーザらス』を「なんとなく」選んでいただけるようになるまで、細かい改善を繰り返しながら、施策やサービス向上を重ねていきたいと思います。

現在は新型コロナウイルスの影響で、以前のように気軽に友人に会って悩みを相談したり、実店舗でスタッフに商品購入の相談をすることさえ難しくなっています。ただでさえ大変な妊娠中の出産準備を少しでもスムーズにし、産後の育児負担を少しでも軽くできるように『ベビーザらス』だからこそ出来るサポートを行っていきます。

昨年から取り組んでいる「おうちでベビーセミナー」「スマホでストアツアー」など、おうちにいながら、安心して参加できるオンラインサービスは、実際に体験されたママたちからも好評で、すぐに定員に達してしまうセミナーもあります。

『ベビーザらス』をまだご利用いただいていないプレママや子育てママ、そのご家族にもぜひ知っていただき、不安の多い現在のような状況でも、マタニティ期・子育て期の負担が少しでも軽くなるように、サポートしていきたいと思います。

インタビューを終えて

ママの3人に1人が使う「ママリ」のデータは、日々の暮らしの中で無意識に「検索」「質問/回答」している中に溶け込んでいる家族の真の欲求が現れる大規模データです。また、一般的な検索サイトやSNSと異なり出産日(予定日)を登録してからサービスの利用を開始する特性もあり、産前産後「いつ、何に悩み、どう解決したのか」などのライフイベントとそれに寄りそう商品や解決策を時系列で知ることができます。

特に、コロナ禍でお産を迎える家庭は、今まで経験したことのないママ自身の体の変化に加え、これまでは当たり前だった両親学級や地域のママ友との出会いなど、情報収集機会が顕著に減少しています。自分の現在地や、いつまでに何を用意すればいいのか、分からず、焦りや不安を感じている家庭も多い状況です。育児グッズのように初めてだらけのお買い物、且つ利用期間が限られる場合は「購入タイミング」と「(先輩ママの)実体験」が道標となります。

調査をご一緒させて頂く過程で、三澤様の「バイアスのないデータ」に真摯に向き合う姿勢はとても印象的でした。潜在顧客に対して「やれることがまだまだある」とスピーディに施策に落としこみ、お買い物に関する悩みに解決策を打ち出し続ける姿勢は、時代に合わせて顧客に寄り添い、進化し続けるニューノーマルのように思います。どんな状況でも「お客様が必要としているときに、必要な情報が届ける」という価値を実行し続けられるよう、ママリのデータを通じて取り組んでいきたいと思います。